歯科医の技術と、患者の気持ちが一つになることか必要なのである。それがあるかないかが、いい入れ歯をよりよくもしたり、あるいは悪くしたりもするのである。素人療法は絶対にさけよ。歯が抜けたところへとりはずしのきく義歯をいれるとなると、機能が一〇〇パーセント回復するということは、まず不可能といっていい。とくに、顎でささえなければならない総義歯の場合は、新しくつくりなおしたときには、もとあった義歯の機能の四○パーセント程度しか回復しないということだってしばしばあるのである。これは、たとえば性能のいい自動車で走れば一時間で到着する目的地に、ポンコツ寸前の自動車でいくと二時間もそれ以上もかかるということとおなじである。最近、商品名はあげないけれども、テレビのCMなどで、ぬればピタッとくっつくと宣伝され、溺れる者はワラをもつかむという心理からか、かなり一般につかわれているらしい接着剤は、いってみればポンコツ寸前の自節車の性能を、とりあえず回復させるための応急修理とおなじようなものだと思えばいい。たしかに、こうした接着剤をつかえば、義歯は一時的にはピタッとくっつく。しかし、日がたつにつれて材質が変化をおこしてくるとともに、口のなかはついにはサンドペーパーをいれているのとおなじような状態になって、それが口のなかの粘膜を刺激しあるいは骨を刺激して、かえって骨を収縮させ、条件をますます悪化させてしまうことになる。これは決して誇張ではない。わたし自身がこれまでに無数といっていいほどみてきた例なのだ。だからわたしは、つかっている義歯が多少ガタついていた場合には、まにあわせに接着剤をつかってというのではなく、徹底的に本格的にもとどおりにする作業をこそすべきだといいたいのだ。とくに全身的疾患があって、歯科医に通院か不可能な患者の場合は、素人療法でむやみやたらに接着剤をつかって、かえって歯の状態を悪くするなどといった愚かなことはやめて、歯科医の指示のもとに一時的にやわらかい材料をつかって義歯に裏打ちをし、接着するようにしなさいと声を大にして申しあげておきたい。接着剤の使用には、かならず歯科医の指示をうけてからにすること、このことこそが、あなたの義歯の機能を回復するためには絶対に不可欠の要件なのだ。