イノベーションは、「発明」がきっかけで起こることが多い。無数の小さな発明や工夫が行なわれ、その基礎の上にイノベーションのきっかけとなる発明が生まれ、さらに市場や社会がその発明と共鳴してイノベーションが生まれるのだ。このように、イノベーションはインベンションがきっかけになることはあっても、インベンションは必ずしもイノベーションではないのである。人が快適に生きるために「白い光」が必要なのは、「黄色い光」の時代でも同じだ。しかし、自由に手軽に扱える「白い光」のなかったそのような時代に、「白い光がほしい」と意識して考えたのは、ごく少数の人だけだろう。見たことも考えたことも気がつきもしないものを、人がほしがるはずがない。たとえばいま、「イノベーションを起こすような画期的な製品は何でしょうか」「この革新技術はイノベーションにつながるでしょうか」と尋ねられても、見当もつかないのと同じことだ。しかし、明かりの歴史をさかのぼってみると、たとえ意識はしていなくても、人が便利で簡単に扱える白い光を求めつづけてきたことがわかる。その証拠に、「白い光」が工夫されると、人はその光に飛びついた。ほしかったから飛びついたのだ。イノベーションはそのような現象を伴っている。白い光に関する工夫や発明はずっと古い昔から現在までたくさんあるが、ふつうの人たちがふつうに使うことができるようになった白い光の明かりは、ごく少ない。インベンションはたくさんあったが、イノベーションにまでは至らなかったのだ。イノベーションとはすこぶる社会的な現象であって、アイディアをつくりだす「人」の要因、環境や社会という「場」の要因、時代や偶然などの「時」の要因の三つの条件がすべて整って共鳴しあわないと成立しない。15世紀のレオナルドーダーヴィンチは、空を飛ぶための「ヘリコプター」や「オーニソプター」のアイディアを紙に描いたが、彼にはそれを実現することはできなかった。科学や技術のレベルにも、社会的な状況にも、彼のアイディアを実現する条件が整っていなかったのである。それから、およそ500年がたった20世紀の前半に、多くの創造的な人たちがこの「空を飛ぶ機械」の実現に挑戦し、1940年にロシア生まれの米国人イコール・シコルスキーによってヘリコプターは実現した。オーニソプターはまだ実現していない。しかし、その実現は不可能であると誰が言い切れるであろうか。ダーヴィンチのアイディアを実現するには、まだ「人」と「場」と「時」が共鳴していないのだ。